珍味は、全国から大阪に。
「からすみ」や「粒ウニ」、それに「このわた」など、昔は高級料亭で珍重された食材を全国各地の産地から大阪に引っ張って来て、卸していました。
珍味屋は、いわば料亭の縁の下の力持ちの役割を果たしていたんですね。
今でも日本中から大阪に商品が集まり、中には大阪経由で海外に送られていくものもあります。珍味の世界では、大阪は今も「天下の台所」なんです。
「ふかひれ」「干しあわび」「干し貝柱」・・・これらも珍味屋の取扱い食材です。
ホテルの宴会場の食材や、おせち料理の食材のほか、料亭や高級寿司屋さんなどに様々な食材を納品しています。
とくに一流ホテルのブランドがついたおせち料理の食材の手配など、表には出ませんが、本当に美味しい特別な料理をタイムリーに供給するだけの長年の実績と信用が自分の財産になっています。
珍味界のドンに学んだ仕事の原点
自分の店舗をもつまでお世話になった大阪の珍味会社は、創業60年の歴史をもつ老舗で、珍味業界を引っ張ってきた代表的な会社のひとつです。
高級料亭に珍味を提供するという仕事に対して、創業者の社長はプロとして厳しい目を持ち続け、それが今のこの業界の発展につながったんだと思います。
その社長の有名なエピソードがあります。
40年くらい前のお話ですが、まだ交通機関も輸送手段も現在のように整備され、便利になってなかった頃、社長の元に北海道の利尻島から貨物列車で「粒ウニ」が届きました。
何日もかかってやっと届いた貴重な「粒ウニ」です。
ところが社長は、荷を開けて商品を見るなり、「品物の状態が納得できない」と、返品してしまいました。
ふつうなら、貴重な「粒ウニ」を送ってくれる産地の生産者に気を遣って送り返すことはできませんが、社長は「悪いものは悪い」と、頑として受けつけません。
送り返された産地の人たちも、「あの社長さんが言うなら仕方ない」と、返品を受け付けたそうです。
また、社長はいったん仕入れた食材は、宝物を扱うように大切に扱っていました。
「このわた」は樽詰めで大阪に届けられますが、それをお得意先の料亭に配達するときには、 自転車の荷台に座布団をくくり付け、振動で品物が傷まないように細心の注意をはらって運んでいました。
名だたる高級料亭が顧客です。
信用を築くには、自分が扱う食材に対するこだわりも半端でないものがあり、 社長のその厳しい目は、今も自分の仕事の原点になっています。